秘密の地図を描こう

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 そっとその髪をかき上げる。
「さて……彼の顔を見たら、君は何というのかね」
 真っ先に出てくるのは恨みの言葉か。それとも……とギルバートは呟く。
「それでも彼のおかげで君を取り戻すことができたのだから……あまりいじめないでほしいね」
 しかし、彼は多くのものを失った。
 ラウを取り戻す代償だったとしても、あまりに大きすぎるのではないか。ギルバートですらそう思わずにいられない。
「ブルーコスモスをこの世界から消してしまえれば、その心配はなくなるのかもしれないがね」
 だが、それにはどれだけの時間がかかるのか。
「それでも、それまで、皆を守れるだけの権力ちからは手に入れたつもりだがね」
 それでも、どこで足をすくわれるかわからない。
 実際、プラントにもブルーコスモスの手のものは潜んでいるのだ。不本意ながら、ザフトにもいるらしい。
 それ以上に、ザフトには《ストライクのパイロットキラ》を憎んでいる者達がいるのだ。
 今はまだ、彼のことを知っているのは彼に好意を抱いているごくわずかな者達だけだと言っていい。しかし、それがいつまで続くかもわからない。
「秘密は漏れるものだ」
 困ったことに、とギルバートは続ける。
「君のことも、いつまで隠しておけるだろうね」
 そう言って、ため息をつく。まるでそれを合図にしたかのようにラウのまぶたが小さく揺れた。
「ラウ? 気がついたのかね?」
 声をかければ、彼がゆっくりと目を開く。だが、その瞳はまだ現実を映してはいなかった。

 気がつけば屋敷は様々な機器で雑然とている。
「お久しぶりです」
 その原因は彼なのではないか。そう思いながらアスランは口を開いた。
「忙しいようだな」
 にやり、と笑いながら彼――バルトフェルドがそう言ってくる。
「厄介事だけしか出てきませんから」
 アスランはそう言い返す。
「セイランには目の敵にされていますし」
 だから、カガリの私的護衛という立場から脱却できない上に使い走りしかさせられていない。少し悔しげな口調で彼は付け加えた。
「仕方がないな、それは」
 セイランは元々大西洋連合とのつながりが強い。あるいは、表に出していないだけでブルーコスモスなのかもしれないぞ、とバルトフェルドは言った。
「その上、カガリは経験がない。人気はあるが、な」
 だが、その人気は連中にしても無視できないものだ。だから、代表という立場にとどまっていられる。
「そんなあいつのそばにコーディネイターは不要だ、と考えているんだろう」
 そばにいられたとしても、アスランが《アスラン・ザラ》であってはまずいのだろうし……と彼は続けた。
「まぁ、それはラミアス艦長も同じことらしいが」
 彼女もまた、偽名でモルゲンレーテにいる。
「……公然の秘密だと思いますが」
 彼女のことは、とアスランは言い返す。
「モルゲンレーテでは、な」
 だが、公的には彼女は《マリュー・ラミアス》ではない。《マリア・ヴェルネス》だ。
「アークエンジェルのメンバーもクライン派もこの国にはいない。そう言いたいんだろう、連中は」
 それでも、自分の活動が制限されていないだけマシだろう……と彼は言う。
「……そうですね」
 それをされていれば、自分達はプラントの情報を入手できなくなる。だから、とアスランは心の中で呟く。
「と言うわけで、キラのことだが……」
 不意打ちのようにバルトフェルドは本題に突入してくれる。
「残念だが、未だに居場所は特定できない」
 この言葉にアスランは失望を隠せない。
「ただ、あいつが作ったんじゃないか、と思われるプログラムがザフト内に出回っているそうだ」
 つまり、プラント国内にキラはいる。そして、ザフトと関わりのある人間にかくまわれているのだろう。
 この言葉で、真っ先に思い浮かんだのはニコルだった。
 しかし、その理由がわからない。
「とりあえず、無事でいてくれればいいのですが」
 それさえ分ければ、まだ、落ち着いていられるのに。アスランはため息とともにそうはき出した。

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最遊釈厄伝